中高生に送る「産業翻訳者って何」

知り合いが地域のボランティア活動の一環として企画した、中高生向け職業紹介オンラインイベントがあり、そこで産業翻訳者という枠でプレゼンを依頼されたので、つたないながらプレゼンして参りました。

進学や就職など、進路を考え始める中学三年~高校三年生あたりまでをターゲットにして、各職業の実務者によるそれぞれの職業紹介をしていくという趣旨。プレゼンはしゃべくりでも、パワポ使っても何でもOK。各プレゼンターのプレゼン終了後には短く質疑応答あり。中高生は大体15人くらい集まった。みんな何か良い子。高校・大学合わせて受験生は半分くらい。

プレゼンには、以下の内容を込めるようにとお願いされた。

  • どのような仕事なのか
  • その仕事には何が求められるのか
  • その仕事に就くにはどんな資質・能力・学習が必要か

以下のプレゼンターが登壇しておりました。

  • ソフトウェア開発者
  • プラントエンジニア
  • 進学塾講師
  • 倉庫業務
  • 各種アルバイト体験談

そのうちの一人として、僕がフリーの産業翻訳者ということで厚かましくもプレゼンをさせて頂いた。プレゼンに使った15分でやっつけで作ったパワポ資料を以下に共有しておきますね。万が一叩き台として使いたい、なんて希有な方がいらっしゃいましたら、コメントでもツイートでも言っていただければと思います。

翻訳と言ってもいろんな種類があるんだよ、ということで、二ページ目でまずざっくりと翻訳の種類を、出版翻訳、映像・エンターテインメント翻訳、そして産業翻訳にわけて説明。本来ならもっといろいろとあるのですが、ターゲットが中高生であることを考慮して、三つくらいがわかりやすいのではないかと。あと産業翻訳に大学や教育機関などの論文翻訳を入れるか?とかいろんなツッコミがあるかとは思いますが、そこのところはとりあえず。はい。

そして自分の簡単な経歴を。中高生のみんなは、この経歴の中の「給料払えないからと言う理由でフリーになって?と言われた」っていうところが結構印象的だったらしい。「給料払えないから」って潰れるってこと?そういうのあるんだ、へえ…って感じで。主に日英翻訳を…っていうところで突如的質問が。

「日英翻訳ってどういうジャンルですか?」

日英とは(一般的に)日本語から英語へ訳すこと、その逆が英日と何ですよ、説明。あーそういうことなんですか、とご納得。

そして3ページ目の「翻訳者に必要なスキル」で、どんなスキルが必要になるの?という部分を解説。ここも三つにわけた。基本今回のプレゼンでは、すべてを「三つのポイント」で構成するように努めた。そのほうがわかりやすいだろうし、興味を持った子がちょっとでも内容を覚えられるようにと考えて、この構成にしている。ここで一番時間をかけたのが最初の「母国語スキル」でした。翻訳は、単なる単語の置き換えではなく、原文の意味を対象とする言語で説明するのが目的だからです。試験問題で出てくるような英文和訳とか和文英訳とは違います。例えば、自分が日本語ネイティブだとして、英日翻訳であれば、原語の英語が説明している意味を最終的に日本語で表現するので、日本語の表現力が必要になる。日英翻訳であれば、原語の日本語で説明されている意味・意図・ニュアンスをきっちり理解・想像・感知するのに、日本語力が必要になる。いずれにしろ、主体的に読み、思考して書くというプロセスを母国語でできるようでなければいけない、ということを強調した。リサーチスキルでは、マクロ目線からミクロ目線で、検索語を操りながら調べ物をできるようにしないといけないことを言った。どんな「検索語」を選ぶかで調べ物の質はかなり変わるため、ここでもやはり母国語スキルが必要になってくるよと強調。そもそも、調べ物はこの仕事の肝でもある。リサーチ抜きに翻訳はあり得ない。そしてビジネススキル。コミュニケーションが大切。今中高生の皆さんはまだお金を支払う側にいらっしゃると思うんだけど、仕事をするようになると、他人からお金を頂く側に回ります。それがどういうことかというと、成果物や仕事を通じた一連のプロセスで信頼を失うと、仕事を失うことに繋がります。お客様は基本的に信頼できない相手と取引なんてしたくありませんので、さっさと仕事を失うことになります。ここで何人かの目がパチパチする。

そして4ページ目。翻訳者になるには(万が一なりたくなった場合)どういう方法があるかということを、大きく三つにわけて説明した。ここで、「断じて高額な翻訳講座、それも翻訳なんて簡単です中学英語で十分ですなどと謳った翻訳詐欺講座には引っかからないようにね」と念押ししておきました。

5ページ目で「翻訳者になりたかったらー今からできること」みたいなイメージで話を展開。

  • 本を読む
  • ネットリテラシーを身につける
  • 謙虚であれ

この三つを強調。特に、本は今からどんどん読んでおこうと。今日目にした文章は明日の糧になる、と。謙虚であれ、自分の立ち位置を常に知っておく、というのはどの仕事にも言えることだろう、と。そんなことを偉そうに語ってしまいました。

そして質疑応答。

うっすら予想してはいたが、やはり出た。自動翻訳について。DeepLやGoogle翻訳を使っている生徒は、けっこういるようです。一人の子が、「自動翻訳って信用できるんですか?」と質問してきた。これに対して、「信用できるかできないかで言ったら、信頼も信用できないので結局自分で確かめるしかありません。ただ、今の自動翻訳はかなり滑らかで自然な訳文を出すようになっていて、なおかつ滑らかに間違えます。明らかな誤訳の場合はすぐわかるけれど、滑らかな間違いの場合はそれなりの言語能力がないと見抜けない。とは言ってもこの仕事しているとそういうところはやっぱりわかります。自動翻訳は大まかな意味をとらえるには使えるかもしれないけれど、翻訳という視点で見ると逆に仕事が増えるんだよね」と答えた。そうしたらその子は「そうか、だからやはり普段から本を読んで鍛えとかないといけないんですね」とコメント。何と素直で可愛いのだ。

というわけで、とても刺激になりました。同時に、あまりうまく伝えられなかったかもしれないという反省も。ただ何人かから、英語の勉強についていろいろ質問され、「翻訳に興味ある?」と聞いたら「とてもあります」とのこと。頑張れ、未来の翻訳者。時代は今とまたガラリと変わっているかもしれないし、結果的には翻訳という分野で働くことにならないかもしれないけれど、いずれにしろ自分の進む道を自分で切り拓いていって欲しい。おじさんはそう思います。

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