Life

とある社会実験

Can one of the nations’s great musicians cut through the fog of a D.C. rush hour?

Washingtonpost.comに、非常に興味深いコラム。

タイトルは、”Pearls Before Breakfast”。記事自体は少し古いけど、とてもいいコラム。

地下鉄の構内に、世界的に有名な音楽家をあたかもストリートミュージシャンのように演奏させて、道行く人々の反応を見てみよう、という社会実験についてのコラムなんだけど、音楽家は世界的に有名なバイオリニストのジョシュア・ベル。ベルの演奏する楽器は、あのストラディバリウス。彼が地下鉄構内の入り口に立ち、バイオリンケースを開けてそこに寄付を募り、ラッシュアワーの忙しい時間帯に美しいストラディバリウスを奏でる時、立ち止まってそれに目を留める人、時間に関係なくその美しい旋律に耳を澄ます人は果たしているのでしょうか。

実験は朝の7:51から始められた。ベルが最初に弾き始めた曲はバッハのシャコンヌ。ベルはこの曲を「この曲は、現存する最高の曲の一つというだけではなく、人間がなし得た偉業の一つとさえ言える。とてもパワフルで、感情的、そして構成的にも完全だ」と述べている。ともあれ、実験はスタートした。

演奏を始めてから3分後、すでに63人の通行人が彼の前を通り過ぎている。一人の中年男性は自分が出ようとしていたゲートを瞬時に変更し、何やら音楽を演奏している人がいるという事実に気づいたかのように頭を振った。それまで誰もベルを気にせず通り過ぎていった中で、この男性の出現は「大したこと」だった。30分後、ベルは最初の寄付を受け取る。一人の女性が硬貨を投げ込み、そして歩き去っていった。

状況は特にかわらない。演奏を始めてから45分間で、7人の通行人が立ち止まり、何をやってるんだというような感じで、一分少々ベルを見ただけだった。通り過ぎていった1070人中、27人が寄付をし、総額は32ドル。Washingtonpostの担当者は実験開始前に、ベルの周りには少なくとも人だかりができるだろうと言っていたものの、人だかりどころか、大抵の人は歩き去っていくのみである。

隠しカメラで撮影されている映像を早送りで見てみると、ベルの動きは実に滑らかで優雅であり、歩き去って行く人々-何も見えず聞こえないように見える人々-と非常に対照的だ。通り過ぎていく人々にとっては、ベルはそこに存在していないかのような、あたかも幽霊とでもいうような存在になっているようである。しかし見方を変えると、実際に存在しているのは優雅な演奏しているベルの方で、特に気を止めずに過ぎ行こうとする通行人の方が幻なのだ。ベルはこの実験の開始直後のことを次のように回想している。「最初は演奏に集中していたんだ。自分の周りで何が起こっているかはあまりよく見ていなかったね」しかし彼の視界に、やがて周りの情景が入ってくるようになる。「なんか少しおかしな感覚だったね、人々がなんかこう、私を無視している、というか」ベルはそう言って笑う。自分に対して笑っているかのように。

プロジェクトマネージャーで30代のデイヴィッド・モーテンセンは、いったんベルの前を通り過ぎてから引き返した。携帯電話で時間を確認すると、壁に寄りかかってベルの演奏を聞いていた。モーテンセンは、クラシックのことをあまりよく知らない。クラシカル・ロックの方が彼は詳しかった。その時、ベルの演奏はシャコンヌの第二セクションに差し掛かっていた。このセクションについて、ベルは次のように説明する。「ここがポイントでね。マイナー調の暗い雰囲気からメジャー調に変わっていくこの部分は、高貴で喜びにあふれるフィーリングに満ちている」しかしベルの説明とは裏腹に、モーテンセンにとってみれば、メジャー調もマイナー調もよくわからない。しかしモーテンセンは言った。「曲が何であろうと、すごく安らかな気分にしてくれたよ」モーテンセンはそこで3分間、ベルの演奏に気を安らいでいた。その間、94人の通行人が通り過ぎて行った。

通勤中のカルビンは地元の行政局に勤務している。その日カルビンは、エスカレーターを登りきると右に曲がり、外に続くドアへ向かった。カルビンには、自分がその場を歩いてた時に、音楽の演奏家か何かが自分の視界に入っていたかどうか、記憶が定かではなかった。「どこにいた?近くにいたの?」「ええ、すぐ近くに」という答えに、驚くカルビン。それもそのはず、カルビンはヘッドホンでiPodの音楽を聴いていたからだ。

「ええ見たわ、そのバイオリニスト」と語るのは、労働関係の弁護士であるジャッキーである。「彼の音楽をよく聴いていたわけではないわ。それよりも、彼がここで何をしているのか、バオリンを弾くというその仕事が彼にとっていい仕事なのか、十分稼げるものなのか、ケースに寄付されたお金で何か新しいことでも始めるのか、それとも空っぽに近いケースで人々からの寄付を募っているのか、とかね、そういった経済的な面を分析していたのよね」

その朝に地下鉄構内でバイオリンを弾いているのがジョシュア・ベルだと数多くの通行人がわからない中で、一人の女性はそのバイオリニストがベルだということに気づいた。フルカワというその日系女性は言った。「こんなこと、ワシントンで暮らしてて初めてよ。ジョシュア・ベルがラッシュアワーの最中にバイオリンを弾いてるなんて!!こんなことが起こるなんて、私はいったいどんな街で暮らしてるの?と思ったわ」

この社会実験の結果、45分の演奏で 1000 人あまりの人が通り過ぎ、7人が立ち止まり、27人が寄付をした。一回のコンサートで 1 分に $100 を稼ぐベルが手にしたのは、たったの$30 あまり。6曲の演奏で、一度の拍手もなし。

日々の忙しさに忙殺された中で、目の前にある美しい情景をちょっとでも愛でようと思えないということは、とてもさびしいことだと思う。でも、何を見て美しいと思うかは個人間で差があるというのも事実。音楽を聞かない人にとってみれば、音楽の奏でる旋律は雑音でしかないし、アートを見ても特に何とも思わない人もいるだろうし。それでも一人一人が持つ心のゆとりを持ってすれば、毎日の忙しい生活の中で出会うかもしれない美しい風景を、「美しいな」と思えるのも確かなんじゃないかな、と。
このコラム、かなり読み応えのある一本。お勧めです。

ソース:Pearls Before Breakfast – Washingtonpost.com

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3 thoughts on “とある社会実験”

  1. こんにちは。

    大変面白い記事だと思うのですけど、残念なことに、個別ページで見ると
    http://blog.transniper.com/2012/04/10/one_social_experiment/
    YouTubeの貼り付けがぺしゃんこになって悲しい見た目になってしまっております。

    ・Firefox,Google Chromeなど、IE以外のほとんどのブラウザでぺしゃんこになります。
    ・トップページで見る限りは大丈夫

     個別ページのほうで、.fluid-width-video-wrapper という余計なclassがついてしまっているのが原因だと思われます。
    wordpressのプラグインとかで、お心当たりはないでしょうか。

    クリックしてYouTubeにジャンプすれば動画もみることができるので、別に困っている訳じゃないのですけど、
    何となくお知らせまで。

  2. >>とおりすがりのひと
    お教えいただきありがとうございます、一応、エディットしなおしてあげてみました。

    YouTubeの動画を回りこむようにしてテキストが入ってしまっていますが、とりあえずは個別ページでもきちんと表示されているはずです…

    Windows Live Writerで書いた記事だったのですが、それが原因だったのかもしれません。

    いずれにしろお教えいただきありがとうございました。

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