日食記念日

22年前の1990年にリリースされたDreams Come Trueのアルバム「ワンダー3」の最後に入っている曲「時間旅行」の歌詞って今年なんじゃん!それも明日じゃん!と気づいたのは昨晩のことだった。

“指輪をくれる? ひとつだけ2012年の 金環食まで待ってるから”

ドリカムはあまり聞かないけど、この曲はメロディーが好きで覚えてた。っていうか、このアルバム、知り合いのお姉にカセットテープで貰ったんだけど、その時12歳、小学六年生。ラジカセでよく聞いてたのを思い出す。それから22年。時が過ぎるのは早いもので気がついたら30代になってた。

22年前にこんな環境でこの日食を観察するなんて思ってもみなかったし想像だにしてなかった。インターネットなんて存在もしてなかったしコンピューターでさえ触れたこともない代物。当時の自分たちのエンターテイメントといえばテレビにラジオだったし、ミリタリープラモだったし、ミニ四駆だった。一位巨人、二位広島のプロ野球ペナントレースに燃えて、夕方やってるルパン三世の再放送アニメにワクワクして、河原でマウンテンバイクを乗り回し、枕元に広がるガンケシ(ガンダムの小さいゴム製人形)の世界は永遠に広がっていた。今思えば、1週間とか1ヶ月というスパンで物事を考えたことなんてなかったし、自分の生きている前後15分くらいが世界の全てだった。楽しくないことがある日はもうこの世の終わりだと思ってたし、楽しいことがあると時間が永遠に続くように思ってたあの時代。夏休み、冬休み、春休みが最高の時間だったあの頃。人と変わってることが最大の褒め言葉だと思ってたあの頃。

この22年で時代は劇的に変わった。「ドリカムの歌で金環食がどうのこうのってのがあった気がする」とウェブ上でつぶやけば、即座に「ドリカムですね」「時間旅行ですよ」「ドリカムの確か時間旅行です」などと返ってきて、前回の日食、次回の日食、そもそも日食って何?月食とどう違うの?金環?皆既?湧き出る質問はぜーんぶ電脳空間のGoogle先生とかいうものが的確に答えてくれちゃう世界。どこそこで太陽が欠け始めたよ、どこそこは雨で見えねー、おおすげえこんな写真とれた!そんな情報を次々に時間軸上で共有していける世界。不思議な国のアリスにでもなった感じ。
でも変わったのは時代や技術だけじゃない。自分も変わった。多感で反抗的だったティーンエージャーを経て、何も怖くなかった20代前半、漠然とした不安を抱え始めた20代後半、そして結婚、仕事、その他色々ぐちゃぐちゃとしたものを経て今につながってる。家で髪振り乱して納期に追われて仕事してぐたーっとのびてなんて生活してると思わなかったし、奥さんがいる生活してるなんて想像もしなかったし。でも多分、根っこの部分は何も変わってないと思ってる。そう、ロックでバカなとこは相変わらず変わってない。「変わってるね」と言われることが最大の褒め言葉だと思ってるのも相変わらず変わってない。ニヤリ。

そういや今年は金環食だなーと意識したのって今年に入ってからのことで、特にこの曲の歌詞を思い出したりすることもなかった。星座とか天体とか、天文関連はすごい好きで流星群とかも見に行ったり土星の輪とかも見たりしてたし、日食や月食も自分の住んでいるところで見られるものは天候の許す限り見ようと頑張ってきた。まあ前回の日食が金環だったかとか皆既だったかとかは特に覚えていない程度のダメな天文ファンなんだけど。そこへ来てこの金環日食。関東で見られる金環日食としては173年ぶりらしいので、観測プレートを購入してちょっと頑張って早起きした。が。ベッドで横になる自分の耳に届くのは残念な音。ザザザっと雨音が果てしなく続く。雨かよ。マジかよ。カーテン開けるとどんよりとした鉛色の空から降り注ぐシャワーのような雨粒。一気に萎える気持ち。たかだか日食見るだけってのにこの浮き沈み。どうしても自分の目で見たいけど天気を変えることなど神以外にできるわけがなく、しょうがなくPCを起動させて適当なツイートから日食のライブ放送をたどりYouTubeで見始める。すごい時代だなと思いつつ、右上から欠けていく太陽と窓の外を交互に見やる。止まない雨とどこまでも暗い観測用プレートの黒、カチカチ進んでいく腕時計の針が指している6:45am。降ったりやんだりを繰り返す雨に焦らされながらただひたすら雲が晴れるのを待つ間にコーヒーを淹れた。コーヒーと日食。特に何の関係もないけど、コーヒーはいつもどおりうまい。トーストも作って何だかうすら健康的な朝食を済ませると時計は7時15分を指していた。YouTube上では太陽がどんどんリング上に近づいていく。時々映る黒点。太陽の前を横切る月。今回の金環食はどうやらプレアデス星団も重なっているようでものすごいレアなんだよ、と知らない誰かがウェブ上でつぶやく。へえ。知らなかった。そらすごいね。コーヒーを飲みながらひとりごと。怖いけど仕事中はいつもひとりごと。そして7時半。窓から首を出すと空が眩しく輝いてた。

件の歌詞は、こう続く。

“とびきりのやつを 忘れないでね そうよ 太陽の指輪”

灰色の空にくっきりと浮かび上がるリング。ああ、あの歌が歌ってたのはこれなんだ、と思い、ちょっとズームさせて適当にシャッターを切る。

きっちりとリング上の太陽が写っていてなんか拍子抜けしたけど、すぐにまた雲がかかって消えていくリング。173年ぶりのリングらしいけど別に生まれてないし。その後雲が途切れたり薄くなったりするたびにリングは少しずつ欠けに戻っていき、通常の太陽に戻っていった。リングの時だけ雲が薄くなって肉眼で見えたことに驚きながら、次の天体ショーは6月4日の部分月食と6月6日の金星通過だなーとぼんやり思う。自分が自宅でそんなことを思っている間、世間では追突事故が相次いだって話。みんな日食に気を取られて突っ込んじゃったわけだ。こういう時は事故りやすいから気をつけねば、と午後の外仕事を本当に気をつけて運転して終わらせた。

で、仕事の途中で先週末に納品した案件の質問対応メールが届き、適当な場所でラップトップを広げてファイルをダウンロードして中身を確認する。クレームじゃないけど質問が含まれていたので確認・修正、コメントを追加してすぐに担当者に返した。この案件はなかなか原文が難解だったので産みの苦しみといったらなかったくらいの案件だったんだけど、どうやらクライアントさんは質問対応含めてとても満足されたようで一安心。そのお褒めと感謝のお言葉を担当者さんがメールで送ってくれた。「感動しました」の言葉に感動したのはこちらです。報酬はもらって嬉しいものだけど、こういう言葉は本当に明日の糧になるので嬉しいっす。もちろん勝って兜の緒を締めよで、引き続き品質改善と保持に邁進する所存。

今朝の日食リングといいメールといい、とりあえずいいことあったので今日は日食記念日。どっかの短歌じゃないけどさ。

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2 thoughts on “日食記念日”

  1. なんか、こういうエントリすごく好きだ。その瞬間の様子も伝わってくるし、知り合って友達になる前にも、それぞれ別の場所で似たようなことに感動しながらそれぞれ暮らしてきたんだなと思うとなんか感慨深い。

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  2. おお、ありがと、Tom.
    ただだらだらと書いてしまった長文、て感じなんだけど。
    こういう文章また出てくるかもですがお付き合いよろしく。

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