翻訳祭(1)

翻訳祭に行ってセミナーを3つ拝聴してきた。参加は初。備忘録的メモを。

初参加なんですよ、翻訳祭。行こうと思っていて、いつもなんだかんだで行かなかった。今年は近所での開催(横浜)なのと、翻訳会社勤務の友人も来るということなので、行ってみることにした。面白そうなセッションもあったので、それはそれでなかなか楽しみだった。

ちなみにJTFに入会すれば色々安くなるとのことだったので、そうすることにした。よろしくどうぞ。

セッション1:質を守る翻訳者の工夫~原稿受領時点から~

前半を高橋さきのさん、後半を齋藤貴昭さんのご担当でした。

まず前半で高橋さんが、翻訳における品質とは?的な大きな目線と、翻訳品質を考える上での必要なイメージを丁寧に解説しておられたのが印象的。

翻訳における品質って一体何なのか。まずは文章における品質を考える必要がある。「伝わるかどうか」という観点で文章を見て、文章を書いた人が何を考えているのかを追うことができるような文章かどうかを評価するというのが文章における品質である、と。そしてその文章できちんと対話ができるのかどうか。そこが大事。で、これをkeep in mindして翻訳における品質を考えると、翻訳には「原文」が必ず存在するので、「原文を書いた人が何を考えているのかを追うことのできる訳文」かどうか、というのが非常に重要なポイントである、と。訳文を読んだときに、原文作者の考えが容易に理解できるクリアな訳文か、または「ぽやっと」しかわからない訳文か。この違い。この部分、「原文読者が原文を読んだときに思い浮かべる絵を、訳文読者が訳文を読んだときにも思い浮かべられるかどうか」ということに置き換えてみると、イメージしやすい。

「絵を書く」=「原文をきちんと読む」という点。

確かに読み込みなしに絵を書いても、出来上がった絵は抽象画みたくなってしまうので、このプロセスは大切。それから印象的なのは、絵を完成させてから「(原文から訳文へ)ぴょーんと跳ぶ」というプロセス。絵(例えば機会図面、化学式、フローチャート、etc.)を描いておいて、訳文言語に「跳んで着地」、いわば、地面から完全に離れて訳文を作り丁寧に着地する、という。

翻訳作業における各工程についても触れていた。

大きく分けて準備工程、翻訳工程、そして見直し・チェック等の後工程。準備工程では、原文の視認性を上げる作業(キーワードの色付け)や原文の位置づけの確認、テクニカルタームの確認が含まれる。特に~化、~性、~的という言葉やカタカナ語は必ずしも専門用語とはならないので注意が必要。置き換えとかも。翻訳工程では先程出てきた絵を書く作業、跳んで着地すること。着地の際にも、本来の意味合いとずれていないかを確認すること。ミスはその場で訂正等々。そして見直しとチェックへと。本格的な見直しの前にプリチェックを行う(書式、段落抜け、数字のチェック)。その後、翻訳者目線・読者目線・チェッカー目線でチェック。チェッカー目線のときはゲーム感覚で。

そして後半の齋藤さんへバトンタッチ。

齋藤さんは、より具体的で実践的な品質保証のポイントを説明しておられたというのが印象的。品質保持の考え方として、最初から間違えないように(後で見つけて直そうはダメ)、間違えても間違いに必ず気付けるような仕組みにする、そして人の能力を過信しない。誤訳・誤解釈の起こる原因は主に、(1)係り受けの誤解釈、(2)指示語の誤解釈、(3)リサーチ不足が挙げられると。これらを防ぐために、複製原稿を作成してそこに必要情報を盛り込んでコメ入れすることで、のちの訳出情報にもなる、と。誤記は誤訳も同然なので、基本すべてコピペで対応。印象的だったのが複製原稿を二部作るという点。通読用そして参考資料づくり用と、二部。参考資料や用語集はすべてテキスト化(→検索できるように)。

翻訳中、誤訳に対しては、資料を参照しながら複製原稿を読んで、論理的に正しいかを常に意識して原稿を読む、と。作業中は色、コメ、付けまくり、と。複数解釈が成り立つところは、何度も読み込む。そしてコメント類はすべて申し送りすべき部分を抜き出し、一覧にして納品する、と。そうしておくことで、訳文の根拠とかをいちいち説明する必要が減るので、時間の短縮になる。

使用するツール類もいろいろ挙げておられた。SimplyTermsとかWildLightとかAutoHotKeyとか。個人的にはどれも使っていなくて、自分独自の方法でやっているので、触りたくなったら触ってみる、というところだろうか。

感想としては、ミスを減らす努力はもちろんなんだけど、ミスを見つけやすくする努力も必要っていう視点を再度確認した。原文読み込みの大切さ、一旦すべてを離れて跳ぶ、そして着地。このイメージは持ったことがなかったので、興味深かった。人間にとって苦手なプロセスをどんどんツールや機械を使ってやっていくことももう一度見直せる部分だと思った。

でもシンプルに突き詰めて考えてみると、今回聴講した内容は最終的にはやはり本当に基本中の基本に集約されていくわけで(よく読む、読者を思い浮かべて訳文を構築する、ミスはその時点で潰す、ミスに対する基本意識、etc.)、いかに基本的な事柄を忠実に忠実にきっちりやっていくかということに尽きるのではないか、と思った次第。このセッションで、そのポイントに連れ戻されたというのが一番の収穫かもしれない。

続く。

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